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多様な家族のあり方-同性カップルと子ども-
3月に国会で審議された「特定生殖補助医療法案」について、「法律婚をしている夫婦」のみが対象となり、罰則規定も含まれていることから、性的マイノリティーを支援する団体などが懸念を示しています。
この法案の問題点について、憲法や家族の在り方に詳しい専門家に意見を伺いました。
(※2025年3月7日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
生殖補助医療と憲法の交差点・・・多様性に向けた法整備の課題とは
名古屋大学の大河内美紀教授(憲法学)は、国会で議論されている特定生殖補助医療に関する法案について、現在の制度が多様な家族の在り方を十分に反映していないと指摘しています。
特に、女性同士のカップルを含む性的マイノリティーにとっての「生殖に関する権利」がどのように保障されるべきかという点で、議論はまだ十分とは言えません。
「生殖の自由」は、1994年の国際会議をきっかけに世界的に注目されるようになりました。
この権利は、すべての人が自らの意思で子どもを持つかどうか、またそのタイミングを選べる自由を含みます。
さらに、科学技術の進歩から恩恵を受けることも、権利の一部として位置づけられています。
そのため、性的指向にかかわらず、生殖補助医療へのアクセスは基本的に認められるべきだとする考え方もあります。
しかし、大河内教授は、「ある権利が存在するということと、その権利が一切制限されないということは別の問題です」と強調します。
また、生殖補助医療の技術的側面――特に第三者からの精子提供を含む医療行為については、これまで主に医学界の自主規制に依存してきたため、法的な議論は深まっていないのが現状です。
その結果、誰がこの医療を受けることができるのかという根本的な問いに対して、明確な答えはまだ見えていません。
違憲性についての見解を問われた際にも、「裁判所が違憲と判断するかは難しい問題です。
生殖に関する考え方は発展途上であり、法の裁量も一定の幅が認められるでしょう」と述べています。
一方で、「日本国憲法のもとで、誰もが尊重される形の制度を整備できるのは、国会しかありません」とも語っています。
最後に、当事者が果たす役割について大河内教授はこう述べています。
「これまで多くの人権が、まず侵害を受けた人々の声から始まりました。その声が社会を動かし、やがて法に反映されてきたのです。だからこそ、今声をあげることが大切です」。
「家族の形」は一つではない。親になる意思と社会の責任
静岡大学の白井千晶教授(家族社会学)は、現在審議中の生殖補助医療に関する法案について、法律婚を条件とする内容に強い懸念を示しています。
現代社会では、家族のあり方はますます多様化しており、「男女の結婚」と「子ども」という従来の枠組みに限らない家族の形が広がっています。
そんな中で、対象を限定し、しかも罰則まで設けるような制度が登場したことに、白井教授は驚きを隠せないと語ります。
この法案は、子どもの法的地位を安定させることを目的としているとも言われていますが、教授は、「婚姻していても離婚に至ることはあり得ます。結婚の有無を親になる条件とするのは、必ずしも妥当ではありません」と述べています。
親になる方法は自然な出産だけではありません。
養子縁組、里親制度、パートナーの連れ子を育てるケースなど、さまざまな形があります。
生殖補助技術もその一部であり、重要なのは「子どもを育てたいという意思」であると白井教授は指摘します。
ただし、すべてが完全な自由意志のもとに成り立つわけではありません。
親になるというのは、気軽に決められるものではなく、例えば養子縁組や里親になる際には、専門機関による面談やカウンセリングが求められます。
生殖補助医療についても、単に婚姻関係や性的指向といった属性で判断するのではなく、育てる側の「意思」と「準備」が問われるべきです。
そのためには、医療機関に加えて、ソーシャルワーカーなど第三者との継続的な対話を通じて、その人が親としての責任を真剣に考えているかを確認し、必要に応じて人間的成長を促す仕組みが求められます。
この分野の法整備は、実に20年以上も前から必要とされてきましたが、国民的な関心が高まらず、結果として政治・行政の取り組みも不十分だったと白井教授は見ています。
今後は、未解決の課題が放置されることのないよう、継続的に声を上げていくことが大切です。
また、生殖補助技術によって親になることは、血縁に重きを置く社会構造を再強化するリスクも伴います。
そのため、子どもや親の権利だけでなく、「血縁中心の価値観が支配する社会」に偏らないよう注意を払うことも必要です。